いわゆるERPパッケージは、企業の主要な業務を運用する基幹システムとして、会計、販売管理、物流管理、生産管理、購買管理、人事等総務系システムなどを総称したものです。
古くは、1980年代米国で登場したCIM(コンピュータ統合生産)であり、主に製造業の業務全般をコンピュータ上で統一して管理する仕組みであり、その後、サプライチェーン全体の最適化を実現するSCM、企業全体の最適化を目指すERPと”統合する”システムの流れがありました。
そして現在、クラウドの時代となり、クラウドERPがここ数年で増大しています。
本講座では、ERPを導入するにあたって、30年来の統合システムの導入における普遍的なポイントと技術の進展によるクラウドサービスならではのポイントを合わせて、企画から立ち上げまでのプロセスにおける重要成功要因を7つ解説していきます。
30年来の企業の基幹システム導入に携わってきた結論として、理想的なERPは「自由なERP」
※以下、講座は順次リリースします。
1.業務改善と共通化
ERPを導入する前、あるいは導入準備として業務の見直しは必須
2.SCMの制約条件とは
企業のサプライチェーンにおける制約条件はどこにあるか認識することが重要
3.企業システムはメリハリが重要
パッケージかスクラッチか、長期間の利用か使い捨てか、視野を広げる
4.企業システムの階層化
統合だけでなく、垂直に分散したシステムを考える
5.カスタマイズを考える
パッケージシステムの宿命であるカスタマイズはどうしたらよいか
6.システム移行の難しさに注意
データ移行、業務移行はできるだけシンプルに考える必要がある
7.そして、プロジェクトマネジメント
コスト増大、スケジュール延期があっても成功に導くのがプロジェクトマネジメント
筆者のERPにまつわる経歴として、30年前に米国製のCIMパッケージのローカライズから始まり、中小企業向け生産管理システム、大企業向けSCMシステム、中堅企業向けERPパッケージそしてクラウドERPサービスまで、長年のシステム導入を支援する経験から今に至って改めて思う理想的なパッケージシステムとは、「自由な」システムであり、それは以下の4つの自由を実現するシステムです。
①システムインフラの管理からの解放
②限られた標準機能からの解放
③ベンダーからの解放
④サスティナブルなシステム
①のシステムインフラからの解放は、今となっては当たり前のクラウドです。30年前のシステムのサーバは当然自社所有のものでしたが、昨今のクラウド全盛期においては、基幹システムでさえもクラウドのインフラを利用するため、サーバ他ハードウェア、OS、ミドルウェアなどの保守、バージョンアップなどから解放され、リソースも負荷に応じて柔軟に増減できます。さらにSaasともなれば、システム機能はサービスとして提供されるため、サーバOSやデータベース、ミドルウェアなどのバージョンなども意識せず運用ができます。
②の限られた標準機能からの解放は、オンプレミスのパッケージシステム、クラウドERPなどいずれも豊富な標準機能が備わっており、以前ほど機能の制約を感じることは少なくなってきたので、カスタマイズ開発を行わずそのまま使えば導入期間も最短で開発コストの増大のリスクも防げます。
しかしながら、一見豊富でかつ痒い所に手が届くような機能はあるものの、自社の業務習慣に合わせた機能変更や事業の強みとしてのオリジナルな業務運用のためのアドオン機能など、理由は多々あれ何らかのカスマイズが発生します。標準機能からの解放とは、自社の強みを生かすため、現場の生産性を落とさないために必要最低限のカスタマイズは必要であるとの前提で、パラメタやマスタで制御できない機能は、パッケージ付属のノーコードツールによる自社開発で対応でき、さらに、カスタマイズしてもパッケージソフトのバージョンアップが担保されていることで、システムのレガシー化を防ぎます。これにより、自社の業務にフィットした自由なカスタマイズと自由なバージョンアップが担保されます。
③のベンダーからの解放とは、前述の①②により、必要最低限の初期の導入支援はパッケージベンダーから受けるものの、インフラやカスタマイズにおける開発作業のベンダー依存から解放されることです。
さらに、パッケージシステムが多様な業務形態に標準機能で対応するため過度に機能強化されたことで、システム自体が複雑となり、パラメタやマスタ設定がベンダーのコンサルでないと実施できなくなってきました。ユーザー企業のスタッフが自社の業務内容に応じて簡単にパラメタやマスタ設定ができるようになることで、ベンダーの都合に影響されないタイムリーかつ自由な運用が実現できます。
④のサスティナブルなシステムとは、パッケージシステムやERPの多くは受注データや製造実績データ、購買データなどいわゆるトランザクションデータに関して、業務的にクローズした状態のものを各テーブルの整合性を保ったうえで一定期間を一括削除できる機能がありませんでした。まれに一括削除機能があったとしても、削除した過去データを保管するために別途BIたDWHなど分析用に集約する必要があります。これはあくまで集計や分析用に集約したもので、元のトランザクション1件、1件をそのまま検索可能な状態で保存したものではありませんでした。これに対して最近見受けられるERPサービスの中には、一括削除機能はもとより、データのアーカイブ機能を標準でもつことで、日常業務で使用する画面から一旦アーカイブしたデータを検索できる機能をもったサービスをあります。これにより、5年、10年場合によっては20年運用を継続しても、性能劣化をおこさずに過去のデータを参照することが可能となります。これがサスティナブルなシステムです。
以上の内容をERPサービス機能の視点から、理想的なERPの機能要件としてまとめると、以下のようになります。
●ユーザー企業には端末(PC、タブレット、スマートフォン)とブラウザのみで運用が可能
●ERP付属のノーコードツールにより、簡単で柔軟なカスタマイズが可能
●業務のポイントを押さえた標準機能は実装されているが、パラメタやマスタが最小限に抑えられ設定・変更作業が容易
●トランザクションデータの一定期間の一括削除機能やアーカイブ機能により長期間のデータの管理がERPシステムの中で可能
こうした機能をもつERPサービスと本講座でも解説するアジャイル方式による導入手法により、ユーザー企業が自分たちのビジネスモデルを自らERPサービスに実装(パラメタやマスタ設定およびカスタマイズ)することで、これまで、ERPパッケージの導入から運用までベンダーにおんぶにだっこ状態でさらにレガシー化しやすいリスクから脱却し、本当に自由なERPを手に入れることができます。